平穏日和
「ブログの説明」の欄でしかブログらしいことできないのな。
2009.02.19 (Thu)
【アキとシッパイ】
親の元に逃げ帰ってきたおれは半べそで親にそのことを伝えた。そしてすぐにアキを探しに出発したが、どういうわけかおれとはぐれた場所に戻ってもアキの姿は無かった。しばらくしたら戻るだろうとおじいちゃんやおばあちゃんをもとの原っぱに残し、残りのみんなでしらみつぶしに山を下っていった。
アキがいたのは、なんと山のふもとまで下りたところの「ここから山道」と書いてある看板のそばだった。訳を聞くと、しれっとおれを待っていたなんて言うものだから、大人たちの矛先がおれに向いた。でも怒られながらおれは不思議でしょうがなかった。男のおれにも息が上がるほどの山道を、どうしてアキはたった一人で踏破しおおせたのだ。あの歳から考えると、当時からそんなことが出来るほど全くもって図太い神経を持っていたようだ。併せて、おれが逃げ出したことを責め立てたりもせずじっと黙って叱られていたアキは、やっぱりおれなんかよりずっと年上なんだなと思った。
アキが自転車のスピードを落とす。幅の広い通りに出て歩道に自転車を入れると、二人で並んだ。
「ここだよね」
「うん」
アキがいたのは、なんと山のふもとまで下りたところの「ここから山道」と書いてある看板のそばだった。訳を聞くと、しれっとおれを待っていたなんて言うものだから、大人たちの矛先がおれに向いた。でも怒られながらおれは不思議でしょうがなかった。男のおれにも息が上がるほどの山道を、どうしてアキはたった一人で踏破しおおせたのだ。あの歳から考えると、当時からそんなことが出来るほど全くもって図太い神経を持っていたようだ。併せて、おれが逃げ出したことを責め立てたりもせずじっと黙って叱られていたアキは、やっぱりおれなんかよりずっと年上なんだなと思った。
アキが自転車のスピードを落とす。幅の広い通りに出て歩道に自転車を入れると、二人で並んだ。
「ここだよね」
「うん」
2009.02.10 (Tue)
地に足つけて
見た事ないような巨木を前にして、ぼくはたじろいだ。
空は透けるような雲で覆われて、赤く点滅してる。風ばかりやけに強かった。
ぼくが持ってきたのは、砂場遊び用のシャベルとバケツ。水道は近くに見当たらなかったから、そのまま掘ってみることにした。
シャベルと手を上手に使い分けて掘っているうちに、どちらも均等に擦り切れていった。ことにぼくの手の平はずきずきと痛み出し、結局はシャベルだけに頼ることになってしまった。
水があれば、土を柔らかくして、きっともっと楽に掘れただろうに。
大木はざわざわと落ち着きなく枝葉を揺らし、ぼくを応援しているようにも、いやいやをしているようにも見えた。
擦り減って欠けたようになったシャベルが、ふいに何か硬いものに当たった。
ぼくの胸は高鳴った。やっぱりここだったんだ。
途端に世界は色をなくし、風はぴたりと止んだ。ぼくの周り全部が、目を凝らし耳を澄ませていた。
慎重に硬いものの周りを掘り下げて、ついにぼくはそれを手にした。
木でできた古い小箱だった。
逸る気持ちを抑えながら、擦り傷だらけの手で蓋を開けてみた。
すると突然、ぼくの体はぽいと空に放り出されたみたいに重力を感じなくなった。目に映る景色がぐるぐる回っている。
手に持った木箱から、するすると音が零れ落ちてきた。
追いかけて 水になって
鳥になって 生まれ変わって
メロディに合わせて空が七色に光る。風はどこからかハープの音色を連れ出してきて、しだいに音量を増して木箱は美しいメロディを奏でる。
あの子の声だ。いつかどこかで出会った、あの子の歌。
音が世界を包み込み、世界がぼくと大樹を囲って踊りだす。
土に還る 水になって
雨になって 思い出すのさ
+ + +
いつしか日はどっぷりと暮れ、取り残されたぼくと木の苗だけが地面に影を落としていた。
長い長い影。途切れることのない、真っ黒な影。
赤い空で、からすがまだあの歌を口ずさんでいた。
空は透けるような雲で覆われて、赤く点滅してる。風ばかりやけに強かった。
ぼくが持ってきたのは、砂場遊び用のシャベルとバケツ。水道は近くに見当たらなかったから、そのまま掘ってみることにした。
シャベルと手を上手に使い分けて掘っているうちに、どちらも均等に擦り切れていった。ことにぼくの手の平はずきずきと痛み出し、結局はシャベルだけに頼ることになってしまった。
水があれば、土を柔らかくして、きっともっと楽に掘れただろうに。
大木はざわざわと落ち着きなく枝葉を揺らし、ぼくを応援しているようにも、いやいやをしているようにも見えた。
擦り減って欠けたようになったシャベルが、ふいに何か硬いものに当たった。
ぼくの胸は高鳴った。やっぱりここだったんだ。
途端に世界は色をなくし、風はぴたりと止んだ。ぼくの周り全部が、目を凝らし耳を澄ませていた。
慎重に硬いものの周りを掘り下げて、ついにぼくはそれを手にした。
木でできた古い小箱だった。
逸る気持ちを抑えながら、擦り傷だらけの手で蓋を開けてみた。
すると突然、ぼくの体はぽいと空に放り出されたみたいに重力を感じなくなった。目に映る景色がぐるぐる回っている。
手に持った木箱から、するすると音が零れ落ちてきた。
追いかけて 水になって
鳥になって 生まれ変わって
メロディに合わせて空が七色に光る。風はどこからかハープの音色を連れ出してきて、しだいに音量を増して木箱は美しいメロディを奏でる。
あの子の声だ。いつかどこかで出会った、あの子の歌。
音が世界を包み込み、世界がぼくと大樹を囲って踊りだす。
土に還る 水になって
雨になって 思い出すのさ
+ + +
いつしか日はどっぷりと暮れ、取り残されたぼくと木の苗だけが地面に影を落としていた。
長い長い影。途切れることのない、真っ黒な影。
赤い空で、からすがまだあの歌を口ずさんでいた。
2009.01.25 (Sun)
【アキとシッパイ】
雨だったので歩行者は少なかったが、その分車通りが多く、縦に並んで進んだ。横に並んではいけないし何より不本意だったけれど、こうしてアキの後ろをこいでいるとお互いの声も届かないほど遠いことに今更ながら気付かされて不安になった。ところでどうしておれが後ろなのか。
昔からアキは気が強い女だった。昔からといっても今はそれほどでもなく、同じクラスの中にはアキをおとなしい女子だと思っている男子もいるらしいが、それは大きな間違いだ。アキは根が太いのだ。
昔アキの家族と一緒に山登りをしに行ったことがある。ほとんど丘と言ってもいいような傾斜だったけれど、間近で見る自然と大人数での外出におれの胸は高鳴っていた。アキも同じだったろう。頂上付近の原っぱで昼食をとることにし、大人より早く食べ終わったおれとアキで山の探検に出かけた。大人たちは近くの原っぱでだけ許可してくれた。ところがアキは大人から見えないところまで来ると、一気に森を突っ切ってふもとまで行かないかと言い出した。もちろんそうしたかったけれど、親の目が怖くておれは乗り気じゃなかった。でもアキは違った。強引におれの手を引くと果敢に山道に入っていってしまった。そしてあらぬことか、上から垂れてきたシャクトリムシに恐れをなしたおれは、幼い少女一人山の中に残して走り去ってしまったのだ。
昔からアキは気が強い女だった。昔からといっても今はそれほどでもなく、同じクラスの中にはアキをおとなしい女子だと思っている男子もいるらしいが、それは大きな間違いだ。アキは根が太いのだ。
昔アキの家族と一緒に山登りをしに行ったことがある。ほとんど丘と言ってもいいような傾斜だったけれど、間近で見る自然と大人数での外出におれの胸は高鳴っていた。アキも同じだったろう。頂上付近の原っぱで昼食をとることにし、大人より早く食べ終わったおれとアキで山の探検に出かけた。大人たちは近くの原っぱでだけ許可してくれた。ところがアキは大人から見えないところまで来ると、一気に森を突っ切ってふもとまで行かないかと言い出した。もちろんそうしたかったけれど、親の目が怖くておれは乗り気じゃなかった。でもアキは違った。強引におれの手を引くと果敢に山道に入っていってしまった。そしてあらぬことか、上から垂れてきたシャクトリムシに恐れをなしたおれは、幼い少女一人山の中に残して走り去ってしまったのだ。
2009.01.23 (Fri)
【アキとシッパイ】
「おそい」
「ごめん!」
「言い訳しないのがハルミのいいとこ」
近くのコンビニエンスストアで待ち合わせをすることにしていた。アキは駐車場に立って、自転車を横に持ちながら待っていた。
雨は依然衰えを見せなければ勢いを増すことも無く、打たれても気付かないくらいの雨量を維持していた。
空ではまた不気味に雲が渦巻いて、時折カメラのフラッシュのような光を放つ。そら聞こえるぞ、雷がくるぞと耳を塞ぐ準備をしてみると、いつまで経っても音は聞こえない。試し光りとでも言うのか、落とすぞ、と脅されているような気がした。そしていきなりどかんと来るのだから参ったものだ。
アキは何も持っていなかった。もちろんおれも手ぶらには変わりなかったが、なんだか心細かった。
さあ行こう、とアキが言って、おれたちは自転車をこぎ始めた。
「ごめん!」
「言い訳しないのがハルミのいいとこ」
近くのコンビニエンスストアで待ち合わせをすることにしていた。アキは駐車場に立って、自転車を横に持ちながら待っていた。
雨は依然衰えを見せなければ勢いを増すことも無く、打たれても気付かないくらいの雨量を維持していた。
空ではまた不気味に雲が渦巻いて、時折カメラのフラッシュのような光を放つ。そら聞こえるぞ、雷がくるぞと耳を塞ぐ準備をしてみると、いつまで経っても音は聞こえない。試し光りとでも言うのか、落とすぞ、と脅されているような気がした。そしていきなりどかんと来るのだから参ったものだ。
アキは何も持っていなかった。もちろんおれも手ぶらには変わりなかったが、なんだか心細かった。
さあ行こう、とアキが言って、おれたちは自転車をこぎ始めた。
2009.01.12 (Mon)
【アキとシッパイ】
「アキとシッパイ」
自転車を停め、家の前の階段を駆け上がり扉を開ける。外は雨だった。
まだ六時前、時間的にはなんら問題は無い。
「お母さーん、電話あったでしょー!」
「ああ、おかえりハルヨシ。うん、アキちゃんからあったわよ。帰ったらかけなおそうかって言ったんだけど、『結構です』って」
「あのさ、ちょっと出かけてきていい?」
「出かけるって、どこによ」
「ちょっと友達の家」
そう言って母の返事も聞かず塾の鞄を放り投げ、踵を返す。
「分かったけど帰り遅くならないようにね。雨も降ってるし、気をつけてね」
「はあい」
うちの母はもともと門限にはうるさくない方だ。多少出かけるくらいならあまり気にしない。折り畳み傘を玄関前の傘たてに突っ込み、着ていたレインコート一枚で再び自転車に乗った。首もとの紐をしっかりと結び、雨水が入り込まないようにした。手首を出して、ハンドルを握る。
アキとの待ち合わせ場所に向けて、自転車をこぎ出した。
自転車を停め、家の前の階段を駆け上がり扉を開ける。外は雨だった。
まだ六時前、時間的にはなんら問題は無い。
「お母さーん、電話あったでしょー!」
「ああ、おかえりハルヨシ。うん、アキちゃんからあったわよ。帰ったらかけなおそうかって言ったんだけど、『結構です』って」
「あのさ、ちょっと出かけてきていい?」
「出かけるって、どこによ」
「ちょっと友達の家」
そう言って母の返事も聞かず塾の鞄を放り投げ、踵を返す。
「分かったけど帰り遅くならないようにね。雨も降ってるし、気をつけてね」
「はあい」
うちの母はもともと門限にはうるさくない方だ。多少出かけるくらいならあまり気にしない。折り畳み傘を玄関前の傘たてに突っ込み、着ていたレインコート一枚で再び自転車に乗った。首もとの紐をしっかりと結び、雨水が入り込まないようにした。手首を出して、ハンドルを握る。
アキとの待ち合わせ場所に向けて、自転車をこぎ出した。



